「パーム・スプリングス」ー終わらないバカンスで傷だらけの自分を癒やしてーネタバレ感想

コメディ

友達の家に泊まったとき、夜中に映画でも観ようかってなって「何かおすすめある?」と聞かれて選んだのが、この映画です。

わりと王道ラブコメですが、リゾート地のキレイな映像と、SF要素の味付けがイイ感じ。のほほんと明るく、笑いがあってハッピーでノリがいい…つまり誰に勧めてもあまり外すことがない映画です。笑

友達と一緒に食べたり飲んだり、お喋りしながら観るのにちょうどいい。

かといって、そんなに薄っぺらな感じもしません。というより私はかなりリピートして観ていて、もう20回は観てるかも。この映画って不思議と飽きないんです。大きな感動とかがあるわけじゃないんですが、何回観てもクスってなります。

作業をするときに気持ちを上げたい、家の中ががらんと寂しいから何かテレビで流したい、などなど。

色んなシチュエーションで楽しめる映画「パーム・スプリングス」の、のほほんとしたネタバレ感想いきます。

鑑賞のまえに

2020年制作/アメリカ

時間:80分

監督:マックス・バーバコウ

出演:アンディ・サムバーグ、クリスティン・ミリオティなど

・ハッピーで元気がもらえる、ラブコメディ

・舞台は砂漠のリゾート地!カラフルで非日常な風景が素敵

・SFものだけど難しい要素はゼロ、頭を空っぽにして理屈抜きに楽しめます

あらすじ

カリフォルニア州のリゾート地パーム・スプリングスで行われた結婚式で、ナイルズという青年と出会ったサラ。意気投合して良い雰囲気になった2人ですが、突然謎の男・ロイが現れてナイルズに襲いかかります。サラは怪我をして逃げるナイルズを追いかけ、不思議な洞窟に迷い込みました。そこで光に包まれ意識を失うと、目覚めたときには何故か再び結婚式当日の朝に戻っていたのです。

混乱したサラはナイルズを見つけ出し、何が起きているのか問いただします。ナイルズによると洞窟に入ってしまったことにより、ずっと同じ1日を繰り返すタイムループの世界に閉じ込められてしまったのでした。サラは何とかループの世界から抜け出そうと奮闘しますが、何をやっても一度眠ってしまえば同じ結婚式の日の朝に逆戻りしてしまいます。やがてその現実を受け入れ、ナイルズと一緒にループの世界でハメを外して楽しむようになるサラ。ナイルズとの距離も縮まり、やっと友達以上の関係になったかと思えたそのとき、ナイルズがサラに隠していた秘密が明らかになり…

感想

2020年の映画なんですね。私は最初にこの映画を観たとき、何だかちょっと懐かしい感じがしました。90年代のトム・ハンクスあたりが主演しているラブコメのような雰囲気。

明るくてテンポがよくて、何回観ても飽きません。最近こういう映画が少なくなっちゃった気がします。社会問題とか芸術的な映像とか泣けるストーリーとか、そういうのも全部好きなんですが、もっと単純に笑えてほっこりできる映画が観たいときってあります。この「パーム・スプリングス」は業界的にも評価が高かったみたいなので、もっとこういう映画を撮ってくれる監督さんが増えるといいなぁ。

さて「パーム・スプリングス」はハッピーなラブコメですが、大枠としてまず“タイムループもの”というSF設定があります。同じ1日を延々と繰り返す…というやつですね。

ちょっと前に観た懐かしの「X-ファイル」では、主人公たちが銀行強盗に巻き込まれる1日がループするという設定でしたが、こちらは主人公サラの妹の、リゾート・ウェディングの挙式当日がループすることになります。銀行強盗に比べればずい分恵まれたシチュエーション。

観客的にも、毎度同じ景色を見せられるなら、砂漠の明るいリゾート地のほうが嬉しいです。笑

ただし主人公のサラはループに巻き込まれた当初はショックが大きく、けっこう荒れ気味です。先にループ世界に閉じ込められていたため、もう慣れっこになってプールでのんびりくつろいでいたナイルズに対して、ループ初心者のサラがブチ切れて缶ビールを投げつけるシーンは痛快。「あんた私に何したの?!」サラはナイルズを追ってループ始動の引き金となる洞窟に入ることになってしまったので、最初はナイルズに対して相当ご立腹でした。

それにしても、特異な状況に置かれた主人公が周りから信じてもらえないのはSFものの定番ですが、動揺するサラへの母親(父親の再婚相手)の反応がけっこう酷い。「本当に結婚式するの?だって結婚式は昨日もうやったじゃない!!」とわめくサラを見て一言。「またクスリやってる?」…うーん、一度悪いおクスリに手を出すと、もう何を言ってもやっても心配してもらえず「はいはい、クスリやってるのね」で片付けられてしまうというのがよく分かります。ある意味で実に教育的な映画です。笑

この件からも、サラの実生活はあまりうまくいっていないのが分かります。自分は“尻軽で酒飲みで家族中の恥”だとナイルズに打ち明けますが、このときサラはもっと大きな闇を隠していました。

実はサラは結婚式の前夜まで、新郎つまり妹の結婚相手と浮気をしていたのです。これはなかなかのクズ行為です。サラの妹は普通に良い人ですし、姉妹仲もむしろ良いほうに見えます。サラは浮気相手の男性がすごく好き、というわけでもなさそうだし。どちらかというと、人生がうまくいっていないからヤケになって最低な行為に走ってしまったという印象。そんなヤケクソに巻き込まれる方はたまったもんじゃないですね。

途中、サラが「このループから抜け出すには自己犠牲が必要なのよ!」とか言い出して、結婚式の真っ最中に妹に自分の浮気のことをブチまけるシーンがあります。当然ショックを受けて泣き崩れてしまう妹さん。一方のサラはというと酒場でビリヤードをしながら「自己犠牲って最高よね」。…いやいや、どこか自己犠牲?思いっきり妹の幸せを犠牲にしてループから抜け出そうとしているだけに見えるんですが。

サラはナイルズに自己犠牲について説明するとき「妹がやった骨髄提供のような行為」と言っていますが、それと自分の最低な浮気を告白して妹の結婚式をクラッシュすることに何の共通点が…。汗

自己犠牲が何かを一番理解できていないのはサラ自身だったようです。

こんな感じでサラはちょっと視野が狭いというか、自分のことしか見えていないところがあります。「家族中から厄介者扱いされてて辛い!妹の結婚相手なんかと浮気して自己嫌悪で辛い!それを打ち明けるのも辛い!辛い!辛い!辛い!」みたいな感じです。自己犠牲が尊いのは、自分の気持ちよりも他人の気持ちを優先させるからです。この場合、姉と恋人に裏切られている妹のほうがよっぽど辛いんですが、そういう他人の気持ちまではサラの視界に入っていません

サラが悪い人間だからだとは思いませんが、傷つくことがいっぱいあって、そのうちにこういう状態に陥ってしまったんでしょうね。

そういえばナイルズにループに巻き込まれてしまったもう一人の被害者・ロイも、当初は自分の気持ちばっかりに目がいってしまい、視野が狭まっていたような…。「結婚とは底なしの哀しみだというが、底というものはちゃんとある。…とんでもなく真っ暗な底がな」とかぼやいていたロイですが、ループの世界から抜け出せないという現実を受け入れたことで、自身の結婚生活への見方が180度チェンジします。

「どうだ、最高の人生じゃないか。妻は今が人生で一番綺麗だし」

おいおい言ってることが全然違うじゃねーか…とポカーンとするナイルズ。でもロイの悟りの境地は素晴らしいですよね。結婚生活にウンザリしていたはずのロイは、そんなドツボな状況での1日がループする世界で、見落としていた幸せに気づくことができたのです。

「どうせ自分にはこの1日しかないんだから、そこで幸せを見つけてみよう」というスタンスで周りを見回してみると、自分がけっこう恵まれていたことを知ります。家族が楽しく過ごせる素敵な家があって、子ども達は可愛くて自分の似顔絵なんか描いてくれている。嫁とも色々あったけど何だかんだやっぱり愛情があるし、今日のランチは手の込んだ料理で感謝の気持ちを伝えてみるか。ああ人生って素晴らしい…みたいな。

未来がないからこそ、プレッシャーとか責任とかの余計なものを視界からどけることができたんでしょう。(何といってもロイは超高齢で双子のパパになっちゃったので、教育費とか考えると日々を楽しむ余裕がなかったんだろうなと想像してしまいます)

一方のサラはというと、ショック状態を抜け出した後は、ロイ同様にかなりループの世界を楽しんでいます。サラとナイルズがノリノリで砂漠のハイウェイをドライブするシーンや、飛行機を盗んでお酒を飲みながら操縦するシーン(そして墜落するシーン)は、この映画の見どころの一つです。ループの世界は現実と違って、どんなバカをやってもその結果を引きずることはありません。過去のやらかしを引きずりまくっていたサラにとって、けっこう快適な世界だったのでしょう。

でも非日常の楽しさって、時間が止まっている楽しさなんですよね。どんなにハッピーでも一種の現実逃避に過ぎないから、そこにいる間は問題は一切解決しないし、自分自身の成長もありません。サラはナイルズとイイ感じになってバカンス浮かれの絶頂にあったときに、忘れていた現実の問題を突きつけられてそれに気づきます。

「私このままじゃダメだ」

ここからサラはループの世界からの脱出に全エネルギーを注ぐことになります。ここからラストまでもテンポがよく、程よく笑いがあって楽しめるのですが、私はサラが覚醒するところが大好き。「私生まれ変わりたい!」っていうポジティブなエネルギーで輝いているサラは魅力的です。ロイくらいの年齢になったら、ループの世界を受け入れて仙人みたいな生き方もいいかもしれないけど、サラの中にはまだ成長したい!変わりたい!という前に進むことへの強い気持ちが生きています。

人間ってやっぱり傷ついて疲れきっているときは頑張れないですよね。サラが妹を傷つけると分かってて最低な浮気行為に走ってしまったのも、もう自分の辛さでいっぱいいっぱいだったからなのでしょう。そういうときには自分を思いきり甘やかしてあげたい。サラとナイルズが過ごしたループの世界はそれには最適な場所でした。

人気のリゾート地で、毎日が最高のお天気のパラダイス。金持ちの別荘のプールでのんびりビールを飲んで、個性的な住人たち相手にイタズラもし放題です。そして一日の終わりには気が向けば結婚式に参加して“タダ酒と愛に浸れ”ます。

でもそこで思いっきり羽根を伸ばして、傷だらけの心を癒やすことができたら…そろそろバカンスも終わり。旅行鞄に荷物を詰め込んで、ホテルの部屋を後にすべきなのです。

ループから抜け出したあとのサラとナイルズがどんな人生を送ったのかは想像するしかありません。ひょっとしたら1週間ももたずにケンカ別れしているかもしれないけれど、でもきっと別れたあとも「パーム・スプリングスでのバカンスは楽しかったなぁ」なんて思い出して、ちょっと幸せな気分になっているのでしょう。何といっても数年分(数十年分?)のバカンスですもんね。いいな~。私も「ドラゴンボール」の精神と時の部屋でそれくらいバケーションしてきたい。

それにしても映画の一番最後に、サラとナイルズが夜の砂漠で見た恐竜たちが再登場するシーンはいいですね。イケないキノコが見せた幻覚だったのかな、と思っていたら、2人がシラフの真昼間にものっしのっしと砂漠を歩いていました。なんとも呑気なファンタジーシーンです。

でもあの恐竜たちが幻覚なのかどうかは、それこそナイルズが言ってのけたとおり「どっちでもいいさ」です。この「パーム・スプリングス」に関しては、小難しい考察とか抜きにして、シンプルに楽しむっていうスタンスで鑑賞するのがおすすめ。

なんでヤギは消えちゃったの?とか、あのおばあちゃんってひょっとして…?とか、確かに考えるポイントは色々あります。でも楽しいバカンス中にそんな理屈をこね回して眉間に皺を寄せてると、間違いなく空気が読めないやつ認定ですからね。旅先の異文化に触れて楽しむように、色んな“すこし不思議(S・F)”をあるがまま受け入れて楽しむのが正解だと思います。

最後になりましたが、この映画は脇役陣が最高です。安定のサディスト、J・K・シモンズは言うに及ばず、ナイルズの彼女の頭空っぽな女の子がすごくいい味。この映画ダメな女の子ほど存在感があって、お上品ないい子タイプのタラが不思議と影が薄いのが面白いです(彼女の一番の見せ場はプールサイドで滑って転んで歯抜け顔を披露するところですね)。

ループの世界では優等生は優等生のまま、ダメ人間はダメなままですが、ナイルズの彼女のことは何か見るたびに好きになっていくから不思議。やっぱ明るい性格って大事ですね。笑

これからも仕事で疲れたら、また「パーム・スプリングス」の世界に癒やされにいきたいなーと思える、ハッピーな映画でした。ネタバレしててもけっこう楽しめちゃうので、未鑑賞の方もぜひ観てみてください!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪

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