スリルと哀愁、そして笑いのせめぎ合い~「ディック・ロングはなぜ死んだのか」ネタバレ感想~

コメディ

何を見せられてるんだ、これはwww

衝撃を受けて作品情報をチェックしてみたら、「スイス・アーミー・マン」の監督作品でした。めっちゃ納得。でも、まさかこんな映画がこの世に2つもあるとは思わんかった(笑)

A24ってすごいな、マジで。

ここの作品は映像の美しさに気をとられがちですが、確実に「笑い」を新しいステージへと引き上げようとしています。「ミッドサマー」もフェスティバルスリラーとか銘打っちゃって、蓋を開けてみたら途中完全に笑わせにきてたもんね。

A24的には、笑いって明るくて楽しい雰囲気の中で起こるものじゃないんですね。

スリルや恐怖や哀愁と不可分なものらしいです。まだ私はその感覚についていけない(笑)

なんか漫画「ピューっと吹くジャガー」のポギーさんのギャグを見せられてる気分です。

この映画を鑑賞した後にポカーンとしている同志のために、ネタバレ感想いきます。

鑑賞のまえに

2020年製作/アメリカ

時間:100分

監督:ダニエル・シャイナート

出演:マイケル・アボット・Jr.、バージニア・ニューコム、など

・鑑賞注意!めちゃくちゃ不謹慎系コメディです(笑)観るならまず一人で!

・直接的な描写はありませんが、ストーリーには動物虐待に関するものもあります

・これらの注意書きを踏まえて、それでもぜひ観てみたいという猛者はウェルカム。気鋭のA24が新しい「笑い」を約束してくれます

あらすじ

アメリカの静かな田舎町で起きた、謎の事件。病院の外に置き去りにされ、すぐに死亡が確認された男性の身体には性的暴行の痕跡がありました。2人の女性保安官が、残虐な殺人事件の捜査に乗り出します。

死亡したディック・ロングは、事件当日の夜に親しい友人のジークとアールと恒例のバンドの練習を行い、その後ドラッグや酒で大いに盛り上がっていました。ディックを病院の外に置いていったのも、ジークとアールの2人で、彼らは少しずつ迫ってくる捜査の手に怯えながら、死亡当時ディックと一緒にいた痕跡を必死に消そうと奔走し…

感想

はい、のっけからネタバレします。ディック・ロングがなぜ死んだかというと、ジークの飼っているお馬さんと×××したからです。何か実話に基づいてるらしいですね、いや本当に人間って計り知れない

正確にいうとそれが直接の死因ではなく、その後頭を打ったことだったか何だったかかもしれませんが、まぁそこは正直どっちでもいいです。ネタバレと言いつつ、この事実は映画の中盤くらいで割と早めに明らかになりますし。それがラストのオチだったら、正直ただのC級映画です。

でもこの「ディック・ロングはなぜ死んだのか」はそんなチャチい映画じゃありません。この映画の見所は、その夜ディックと一緒にお馬さんと×××してたジークが、その絶対絶対絶対絶対バレたくない事実を隠すために、事件当日の夜ディックと居たことを隠蔽するためテンパりながら奔走する姿です。

一番笑ったのが、ディックを病院まで運んだ車にベッタリ血がついていたために、証拠隠滅で沼に捨てようとするシーン。えいやぁ!っと車を沼のほうに押すと、車体の前3分の1くらいだけ沼に沈んで、後ろの大部分は沈没直前のタイタニックみたいに水面からばっちり突き出てしまいます。「しまった…沼の深さを計っておくべきだった…」とがっくり膝をつくジーク。

アホすぎるwwwもう笑うしかないでしょ、その絵面。多分世界一マヌケな証拠隠滅シーンです。

ジークもひょっとしたら普段はもうちょっと賢いのかもしれませんが、とにかく「自分のヤバい趣味がバレたらどうしよう」という恐怖で、正常な判断ができなくなっています。そこがリアルで面白いんです。

死んだディックの財布をいじくっているところを娘に見られ、「それどーしたの?」「えーと…拾った」「ふーん」からの、街中で娘が警察官に「おまわりさーん、パパは今道で拾ったお財布持ってますよー」「(やめてーー!!)」のくだりは、もう笑うというよりジークが可哀そうになってくる…。この後もジークは散々無邪気な娘にいたぶられることになり、見てるこっちまでストレスで禿げそうです。娘ちゃん、もうやめてあげて、本当に(笑)

そして娘ちゃん以上にディックを追い詰めるのが、何も知らない妻のリディア。(ジークが沼に沈めた)車が無いことにリディアが気づき「車はどーしたの?」「えーと…盗まれた」「マジで?」からの、すぐに電話で警察に「おまわりさーん(以下略)」。家族に背後から撃たれまくるジーク。車の盗難について警察官が事情聴取にきたときはすでに瀕死の状態で、まともな会話もままなりません。

さっきから茶化しまくって書いてますけど、映画ではこのへんのシーンはすごく緊迫感をもって描かれていて、それがまた逆に笑いを誘うんですよね。多分誰もが経験したことがある「都合の悪いことを隠そうとして小手先でごまかそうとすると、次から次へとボロが出て窮地に陥る」という状態。ジーク目線でスリリングに描くことで、観客が感情移入しやすくなっています。まぁ、普通は小学生くらいで経験するんでしょうが、いい年齢したジークが頭を抱えて「ぬあぁぁぁーー!!」ってなってるのが面白いんですよ。

「あぁ~、バレちゃう!バレちゃう!」というハラハラドキドキ感が、自然と笑いにつながっていく。うまいなぁ~、A24。

ちなみにそうと知らずにジークを追い詰めるリディアですが、ジークから真相を打ち明けられてからは事実を隠ぺいする側に回るところもリアルです。小さな田舎町で夫のヤバい趣味が公になってしまうと、自分も娘ももう表を歩けなくなってしまいます。夫はもう生理的に無理だし決して許すことはできないけど、頼むから世間に対してはこの事実を隠し通してくれ!という、リディアのジーク以上に必死な表情がすごい。いや、奥さんも大変だね…。

さっきまで無邪気にジークを追い詰めていたリディアの180度大転回。保安官に尋問されて、冷や汗をダラダラしながら2人で支離滅裂な返事を繰り返すジーク夫妻。それを見ている友人の「こいつら頭おかしなったんちゃうか」みたいな顔。最後の最後まで惜しみなく笑いを詰め込んでくる監督に脱帽です。

そんな笑いの最高潮の瞬間は、保安官の尋問に耐えきれなくなったジークがいきなりバッと椅子から立ち上がるシーン。ジークは家を飛び出し、当然彼が逃走するものと思った保安官は慌てて後を追います。…どうするんだ、ジーク?!と思いきや、何故か馬小屋へ駆け込むジーク。そして飼っている馬のコメット(ディック・ロングの死因になった例の馬です)に駆け寄り、「逃げろ!コメット!!」と叫んでコメットを馬小屋の外へ放ちます。

いやいやいやいやいやいや!!wwwww「逃げろ!」じゃないでしょww

コメットは別に逮捕されんし!保安官の狙いは最初からお前だろwww

でも、このシーンも何故か美しき友情の一場面みたいな、ドラマティックな演出なんですよ。アカデミー賞受賞の「ブレイブハート」で、ロバートがウィリアム・ウォレスを馬で逃がす、最高に泣けるあのシーンが一瞬でも頭によぎった自分が許せない(笑)

まぁ、当然ながら保安官はコメットのことはポカーンとした顔で見送り、その後に馬小屋から飛び出してきたジークに駆け寄り、あっさり彼を確保します。保安官に組み伏せられながら、夜の闇に消えていくコメットを万感の思いで見送るジーク。もうダメ、笑い過ぎてお腹が痛い…。

ここから映画の色調は緊迫感のあるサスペンス(と笑い)から、すべてが暴かれてしまって家族のもとを去ることになったジークの哀愁(と笑い)へと進んでいきます。

小さな田舎町の保安官は過激なゴシップが広がるリスクを考え、真実は公表しないことを決めました。しかし、当然ジークはそのまま家族と一緒に暮らすことができず、友人のアール(当日ジークとディックとお馬さんと(以下略))と一緒に町を出ることを決断します。

出発のまえに、娘との約束だったピアノ発表会に行き、教室の後ろのほうから娘の姿を見守るジーク。娘も事情が分からないながらも、パパとはこれでお別れだということを薄々察しています。娘は母親の実家(?)に向かうため車に乗り込み、後部座席から無言でジークに別れを告げました。

そしてジークは悪友アールとその彼女と一緒に車に乗って、何ともいえない思い出がつまった町を去っていくのです。そのエンディングで流れるイイ感じの音楽。…もうね、最後まで何かカッコいい風の雰囲気出してるけど、こいつら馬と×××してるのがバレて、町からコソコソ出ていくだけだからね。何をしんみりさせようとしているのか。

というわけで感想も何も、終始「アホすぎる」という言葉しか出てこない、それでいて愉快な素敵映画でした。私は好き。めっちゃ不謹慎だから、人と一緒には観たくないけどね!この映画で笑ってるところを見られると、自分のイメージが悪くなるのは間違いなしです。監督も最初にこの構想を思いついたときに、周りから「それはやめとけ」と止められたらしいです。(ちなみに絶対誰もやりたくないだろうディック・ロング役は、監督が自分で演じています。そこまでして映像化したかったんかい(笑)

この映画、ディックを追い詰める(?)保安官コンビもめちゃくちゃキャラが濃いんですが、そのうちの1人のぽっちゃり女性保安官が「人間って、計り知れないですね…」という言葉を呟いて事件を締めくくります。まぁ確かにそういうざっくりとした言葉でしか、この映画の総括はムリですね。人間って、計り知れない。自分の旦那が隠れてお馬さんといかがわしいことしてたり、そのままうっかり死んじゃったり、そんでその事実を隠そうと奔走していたり…。そんなの想像もできませんから。

でも実はそういう世にも奇妙な物語(?)が、自分の身の周りで今も密かに進行しているのかも?それが明らかになったとき、私にそれを映画を観たときのように笑える器があるのか??……そんな試練が永遠にこないことを祈るのみです。

でも、ジークが町を去るときのエンディングシーン、エモーショナルで良い感じだったなぁ……。最後はなんか綺麗な余韻、さすがのA24作品でした

最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪

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