世界史という大河、個の人生という泡沫~「アムステルダム」ネタバレ感想~

アドベンチャー

面白かったですねー!!

第一次大戦から第二次大戦にかけての、台風の目的な時代の空気感(少なくとも現代の私たちが空想するところのイメージ)がエンタメ性たっぷりに描かれていて、ラストまでワクワクしっぱなしでした!

個人的に「映像の世紀」が大好きで、もう舞台設定からハマりまくり。

あんなに重厚じゃないけど、イキイキと魅力的な登場人物たちと一緒にあれらの時代にタイムスリップする感覚が楽しめます。

キャストもめちゃくちゃ豪華ですしね!クリスチャン・ベイル、マーゴット・ロビー、ジョン・デビットワシントン、ロバート・デ・ニーロ、ラミ・マレック…(ちょこっと役でテイラー・スウィフト)。新旧のハリウッドスター達が渋滞してます。笑

それでは興奮冷めやらぬまま、ネタバレ感想…というか雑感いきます。

感想のまえに

2022年製作/アメリカ

時間:134分

監督:デビッド・O・ラッセル

出演:クリスチャン・ベイル、ジョン・デビット・ワシントン、マーゴット・ロビー

・第二次世界大戦という嵐の前の静けさ、1930年代を舞台にしたワクワクの冒険もの

・主役3人がみんな個性炸裂で魅力的(特にマーゴット・ロビーのイカレっぷりがGood)

・大人だからこそ感じる青春へのノスタルジーもあって、とにかく大満足な一本です

あらすじ

舞台は1930年代のニューヨーク。第一次大戦中に深い友情を抱くようになったバートとハロルドは、恩師の死をきっかけに巨大な陰謀に巻き込まれていきます。

バートは医師であり、戦友であるハロルドと共に、将軍の娘リズから父の死の真相を解明するよう依頼されました。しかし、リズが2人の目の前で突然殺害され、2人は殺人の容疑者として追われる身となります。自分たちの潔白を証明しようと行動を起こす中で、彼らはオランダのアムステルダムで出会った看護師ヴァレリーと再会し、実はアメリカ有数の富豪の一族であった彼女にも協力を求めました。

再びチームを結成して、やがてアメリカの経済界・政界も絡んだ大きな陰謀に迫っていくバート・ハロルド・ヴァレリーの3人。そこには恐ろしいファシズムの思想が根付いていて…

感想

浦沢直樹の漫画はお好きでしょうか?

めちゃくちゃジャンル多彩な作家ですが、この場合は「20世紀少年」とか「ビリーバット」とか、ああいう作品の雰囲気はお好きですか?

大好き!という方は、この映画「アムステルダム」をぜひ観てほしいです。

ファンタジーやSFの要素こそないものの、もう、あのまんまの感じの世界観だと思ってます、個人的には。笑

2つの世界大戦に挟まれた激動の1930年代を舞台に、個性豊かな凸凹親友トリオが力を合わせて巨悪に立ち向かう!…みたいな。

ノリは完全にヤングアダルト小説。知的な冒険があって、ユーモアがあって、グッとくる友情がある。本が好きな中高生とかが夢中で読んじゃうやつです。

主人公たちに謎めいた依頼をしてきた美女が目の前で殺されてしまったり、その濡れ衣を着せられて逃亡することになったり、戦地で出会った2人が一生の友情を誓いあったり、そこにクレイジーで魅力的な美女が加わったり、新たな大戦を阻止するために諜報員が暗躍してたり、謎の大富豪が登場したり、社会を影で動かしている財界の大物たちの陰謀があったり……

ね?それぞれの要素を拾っただけでも、この映画絶対面白いやん!ってなるでしょ?

(でもそこまでヒットしなかったのは、多分映画よりも小説向きな内容だからかと)

映画のストーリーを順序立てて解説したり、考察したりしてみたいんですが、なんせこの映画は情報量が多すぎてブワーッと広げた風呂敷を畳める気がしません(そのへんも浦沢直樹風)。

なので要所要所、感想を言いたいところだけ…。

この映画を観て一番言いたかったのが、「ラストのバート(クリスチャン・ベイル)の独白最高」ということです。もうある意味、これまでの冒険も陰謀も、全部この台詞を際立たせるための演出でしょ、と言いたくなる。

ラストで、ファシスト達の陰謀を阻止して喜び合う主人公3人。

それまで人種の違いを恐れて人目を忍んでいたハロルド(ジョン・デビット・ワシントン)とヴァレリー(マーゴット・ロビー)が、今こそ自分の気持ちに正直になろう!と、関係者たちが見ている前でキスを交わします。

それを見守り、幸せそうに微笑むバートが

「これだよ。これこそが我々が世界に立ち向かう術。自分自身に忠実になり、人生を愛することだ」

と心で呟くのです。

それは3人が出会ったとき、ヴァレリーが口にしていた言葉にも通じるものがありました。

自分が愛するものを知り、それを愛することを楽しみましょうよ。美しいもののために生きる、少しくらい貧しくても

芸術家であるヴァレリーならではの、素晴らしい人生観です。(実際は彼女はアメリカ有数の富豪の家のお嬢様だけどね!)

ささやかな人生や美を愛する心こそが、権力に取り憑かれて世界を自分の思い通りに動かそうとする邪悪の対局にあるものだと思います。

権力者にとって人間は数字でしかありません。選挙での1票分、戦地に投じる兵士1人分、大衆の心を動かすための死者数1名分。それだけ。

けれど個々の人生は本当はもっと豊かで価値の高いものなのです。バートが「人生はタペストリーだ、オペラだ」と表現するように、一人ひとりの人生に無数の美と神秘が織り込まれています。自分自身の人生の宝石のような価値を知り、それを愛することこそが、私たちが政治思想だ戦争だという世の中の大きな流れに完全に呑み込まれてしまわないようにする唯一の方法なのでしょう。

特に国家の尊大な権力の前で、1人の人間の価値を最小限にまで貶めようとするファシズムに抵抗するためには。

映画の中に「ムッソリーニは子どもを車で轢いてそのまま走り去っていった」というエピソードが出てきますが、それこそが「優先されるべきは国家(ムッソリーニ)であって、一人の人間の命や個性は重要ではない」というファシズムの基本姿勢をよく表しています。

今でこそ言語同断の思想に思えますが、あの当時は学識のある人達も割と真剣に信じてましたからね。人を人種や能力などで分けて、優秀な人間だけが生き残るべき!みたいな、人間の価値を国家の役に立つかどうかだけで判断するような優生学は、当時確かアメリカで盛んに研究されてたはず。(ハロルドとヴァレリーが迷い込んだ謎の施設では、それを実践していました)

映画だと五人委員会とかヴァレリーのお兄さんみたいな、一部のイカれた富裕層の暴走みたいにも見えましたけど、実際のところ当時のアメリカでファシズムの過激な運動を起こせば、普通に何割かの人はついていったでしょう

あの時代に世界一ともいえる人気を誇っていた、大西洋単独無着陸飛行を成し遂げた飛行家リンドバーグも、開戦までは親ナチ派として知られていました。

ましてやアメリカ軍の白人兵士は命がけの戦場に来てまで「黒人と同じ軍服は着たくない!」とか言い出すくらいですからね。当時の一般人の民度なんて推して知るべし…です。

そんな世の中で…というよりも私たちの未来も含めてどう転がっていくか分からない世の中で、正しい生き方をするにはどうすればよいのか?

その答えが、バートの「自分の人生を愛する」であり、ヴァレリーの「美しいもののために生きる」なのです。

自分の人生や、そこに関わるどんな小さな存在の価値も、決して忘れてはならないということですね。世界大戦や国を動かす政治、大富豪たちの行動や考えに比べれば、とてもちっぽけな存在に思えるかもしれないけれど、でもどれも大切なもの。失ったり損なわれたりしてはならない、かけがえのないものです。

権力者たちが無価値だと切って捨てるようなものの中に、美を見つけること。それが私たちの戦いといえます。

この映画の中でその美を一番象徴していたのが、主人公3人が青春のひとときを過ごしたアムステルダムでの時間ではないでしょうか?

永遠には続かないと分かっている、あまりにも儚く、だからこそ最高に輝いていた時間。上流階級のしがらみや人種差別、それらすべての煩わしさから逃避して過ごした幸せな思い出。ハロルドとヴァレリーはそこで愛を育み、3人は「一生互いを守り合う」という誓いをたてました。

やがてアメリカに妻を残してきたバートは帰国し、ハロルドもバートと同じように帰還兵を助けるという使命感に燃えて帰国。ヴァレリーは窮地に陥っていたバートを助けるために家族に連絡したことで、家に連れ戻されます。

こうしてアムステルダムでの日々はあっさりと終わりを迎えるのですが、それでも3人の胸の中には、いつもあの幸せな思い出が宝物のように大切にしまわれていたのです。

ハロルドとヴァレリーが再会したとき、そしてバートが2人を港で見送るとき、ハロルドとヴァレリーが「アムステルダム」と互いにささやき合うカットが挿入されるのが印象的です。お互いの間に、それ以上の説明は何も必要ないというように

3人のアムステルダムの思い出に、実業家やファシスト国家が認めるような質的な価値は何もありません。兵士の傷口から取り出したヴァレリーの砲弾コレクションよりも、遥かに捉えどころのないものです。

それでも、3人はその思い出のために人生をかけることができます。

そこで得た友情のために命がけで戦います。なぜならそれは自分たちはその価値をよく知っているから。

大戦後の帰還兵の苦しみや、ヨーロッパでのファシズムの台頭、さらにはアメリカの汚点ともいうべき実際の事件「ビジネス・プロット」といった要素を取り入れて、観客に歴史の壮大なスケール感を意識させているこの映画。

その対比として、主人公3人の人間的な個性や、彼らが大切にしている友情、青春の思い出といった、儚く小さいものの美しさが際立って感じられるのです。

映画全体の雰囲気も、重厚感よりも軽やかさ、ドラマティックよりもユーモラス。あくまでも歴史ではなく、個々の人間ドラマを観ている感覚にさせてくれるのが良かったですね。

まぁ、そこは役者さんたちが実力派揃いなおかげもあるのかな。

どんな舞台設定においても、一人ひとりが強烈な個性と光を放っていました。

マーゴット・ロビーの華やかさは言うにおよばず、バットマンことクリスチャン・ベイルのうって変わった剽軽なキャラクターとか、ジョン・デビット・ワシントンの相変わらず知性的で鋭い眼差しとか。

私の中では彼は「ブラック・クランズマン」のキュートなアフロのイメージが強いんですが、こっちの髪型のほうが彼のキャラクターには合ってるんでしょうね。笑

お父さんのデンゼル・ワシントンは「黒人=コメディアン」という世間のイメージを嫌って、社会派な映画ばっかり出演していたと聞きます。彼もお父さんのやり方を引き継いで、しっかりと良い映画を厳選して仕事を引き受けてるみたいで、どの作品も安心して観れるのが嬉しい。

ただ1つ!唯一不満だったのが、ロバート・デ・二ーロの役どころです!

あんな完全無欠の高潔な人物、デ・二ーロじゃなくていいじゃん!

デ・二ーロの無駄遣いですよ、まったく。

この映画大好きだからこそ、もっとロバート・デ・二ーロに、彼しかできないような個性的な役をやらせてほしかったな。せっかくこんなワクワクする時代設定だったんだし。

デ・二ーロといえばね、アルカポネなんですよ

穏やかなインターンのおじいちゃんじゃないからね?

最近のデ・ニーロは、なんかすっかり丸くなって“良い人キャラ”ばっかりやってる気がして寂しいです。最後にもう一度、「タクシードライバー」とか「ケープフィアー」で見せたあの眼を見せてくれ…。

…と、時代遅れな不満を漏らしつつ、締めくくりたいと思います。笑

(すみません、デ・ニーロ愛が強すぎて)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪

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