全員ぶっ飛ばせ、私たち以外~「ディナー・イン・アメリカ」ネタバレ感想~

ラブストーリー

久しぶりにぶっ飛びました!

いや、めっちゃ面白い映画。お腹抱えて笑ってしまった。こういう完全に針が振り切れてる映画を作ってくれるから、アメリカ映画って大好きよ。

日本でこの手の映画とかドラマ作ったら、完全に少女漫画のノリになっちゃうし。美人女優とかアイドルを起用して、どれも似たりよったりな感じの展開でね。

その点「ディナー・イン・アメリカ」は一回観たらなかなか忘れられないです。

まさにパンク・ロッカーにぶん殴られたような衝撃。

思いきりネタバレで感想を書いていきますが、この映画に興味ある人は絶対本編から観てくださいね!ポスター画像とキャッチコピーに目を通して「面白そうだな」と感じたら、その直感を信じてください。

大丈夫、面白いよ!!

鑑賞のまえに

2020年製作/アメリカ

時間:106分

監督:アダム・レーマイヤー

出演:エミリー・スケッグズ、カイル・がルナー、他

・ダサくて痛い女子×パンクな犯罪者のラブコメディ。ヒロインは本当にダサくてモサくて不細工だからね!アン・ハサウェイみたいなオシャレなサクセス・ストーリーとか期待しないでね

・お下品なセリフとギャグを振りまきながら、主人公2人が暴れまくるところは痛快

・この映画観て「不覚にもときめいてしまった」という人も大丈夫、ちゃんとラブ・ストーリーとしても作られてるから、その感情は別に間違ってません。笑

あらすじ

孤独で臆病な少女パティは、過保護に育てられ、単調な毎日を送っていました。彼女の唯一の楽しみは、パンクロックを聴くこと。ある日、パティは警察に追われる不審な男サイモンを家に匿いますが、実は彼こそが彼女の愛するパンクバンド「サイオプス」の覆面リーダー、ジョンQでした。

サイモンはパティの家に滞在しながら、彼女と次第に心を通わせていきます。パティはサイモンの影響で自分の殻を破り、周囲の人間に反抗して、自分の気持ちを自由に表現できるようになっていきました。そしてパンク音楽の才能に目覚めたパティとサイモンは一緒に曲を作ります。絶好調の2人ですが、サイモンとバンドのメンバーの間には不協和音が生じていて…

感想

冒頭にぶっ飛んだと書きましたが、正確にはぶっ飛んでるのは私じゃなくてヒロインのパティなんですよ。
すごいよ、1回見たら忘れない。3回見たら癖になる。笑
第一印象は本当にブサイクで、何より負け犬オーラがすごい。(演じてるエミリー・スケッグズはキャリー・マリガン似のキュートな女優さんなので、あくまで役作りです。プロだ。)

髪もダサいし、服もダサいし、眼鏡もダサいし、仕草も表情もダサい。
しかめっ面したり唇をすぼめたりしたときの細やかなブサイクっぷりに、ぜひ注目してほしいですね。

アメリカの青春映画やジュナイブル映画では、クラスの中で“イケてないグループ”に属してる奴が主人公という作品は珍しくありません。アメフトの花形選手やプロムクイーンばかりがもてはやされる社会だからこそ、そこで輝けなかった人たちの青春時代への思い入れは強く、そういう作品が愛されるのでしょう。

でも大体の作品は、自身の“イケてない過去”を愛おしみつつ、それを乗り越えて今僕たちは立派な大人になった…的な着地をするんですよね。

対する「ディナー・イン・アメリカ」は、そういう“丸くなる”とか“乗り越える”とかいうヌルさを全力で拒否しています。「一生“黒歴史”上等」みたいな。笑

確かに筋金入りのブサイク女子パティも、サイモンに恋をするようになって段々キュートになっていきます。映画の最後にはちゃんとメイクするようになったパティの可愛い顔が映って、よくあるハッピーエンドかな?と思いますが……

次の瞬間にはバスの中でブチ切れて、同じ高校の女子生徒の顔面をぶん殴ってますからね。その後バスを降りて、バッグから何を取り出すのかと思いきゃ、黒い目出し帽。それをスッポリ被って、音楽を聴きながらフンフン~♪と体を揺らして踊っています。いや、完全に危ないヤツ。笑
お母さんが子供に「見ちゃいけません!」って言うアレですよ。

それがこの映画の着地点なんですよね。だからぶっ飛んでて好きなの。
よくあるアメリカの青春映画と、そこが違う。

クソみたいな高校のスクールカーストの中で浮き上がれなくてもがいてたけど、今は同じくらいクソみたいなビジネスの世界で成功したから、冴えない過去も受け入れられる……

とか全然ダメでしょ?は?何言ってんの?ってなりますよ。
結局、最後には自分が反発してたはずの物差しで生きてて、その基準で成功したかどうかの話になってるんじゃん。

まぁ、アメリカで映画製作に携わる人達って、学生時代はオタクみたいな立ち位置で虐げられてて、そこから今はクリエイターとして成功して同級生を見返してやった!ていうケースが多そうだから、そういう思いが滲み出ちゃうのかもしれないですけど。

大人になって自分が成功したら忘れてしまうのかもしれないけど、若いときの「この世界ってクソだな」っていう悟りは真実なんですよ。この映画では、それが家族の食事シーンによく表れています。
互いへの無関心、レッテル貼り、冷笑、見下したり見下されたり…そんな会話しながら飯食って本当に美味いと思ってんのか?一見したところ裕福な上流家庭というサイモンの家族は、まさにそんな感じでした。サイモンは子供の頃からずっとああいう家族に囲まれていて、さぞ息苦しかったんでしょう。

子供の感じている息苦しさに早めに気づいてあげないと、いつか前科持ちのパンクロッカーになっちゃいますよ…っていうね。

でもパンクっていう生き方があるから、サイモンもパティもこの世界で絶望せずに生きていけるんです。つまらない物差しで生きてるつまらない奴らは全部ぶっ飛ばして、自分を貫きたい。そういう心の叫びなんですね。

確かにサイモンも、一般のアメリカ社会の価値観でいうと負け犬なのかもしれません。ヤバい治験バイトで小銭を稼いで、お巡りさんからコソコソ逃げ回って、恋人もいなくて、顔も分からない女の子のパンツの写真にハアハアしてて、イキってるけど喧嘩したらあっさりKOされちゃって…。

でも、それを「クールだ」とか「クールじゃない」とか、つまらない他人から評価されることに、サイモンは怒り狂うのです。パンクの精神とは従来の規範や価値観への反抗。お前らなんかに俺たちの何がわかる?!
俺たちはお前の持ってる物差しが通用する領域の外にいるんだ。

俺たちはパンクだ

その精神が最高にクールなんです。サイモンはばっちり前科もついちゃって、多分出所後もそんなに生き方を改めることはないでしょうし、彼の家族が考えるような“勝ち組”の人生を送ることはないでしょう。

でも彼の存在はパティの人生を救いました。周りから「トロい」とか「バカだ」だと見下されて劣等感に苦しんでいたパティに「お前は最高にパンクだ」と言って、新しい世界の新しい物差しを見せてくれたのです。パティはばっちり影響を受けて、これまで居場所がなかった世界で、自分の実力を発揮する道を見つけました。

それこそがパンクのカリスマであるサイモンの偉大さなんですよね。彼の家族には一生理解されないでしょうけど。

“勝ち組”か“負け犬”かにこだわるアメリカ社会では理解されにくいだろうけど、君たち輝いてるよ!っていうメッセージは、私の大好きな「リトル・ミス・サンシャイン」を思い出させてくれます。

あの映画も、ものの見事に“負け犬”ばっかりが勢ぞろいしてドタバタやって、登場人物全員が最後まできっと劇的に浮上することはないんだろうけど、なぜか「みんな最高!」って思える素敵な映画でした。確かにあの一家もボロボロのバンに遺体を隠して爆走してて、かなりパンクな生き方してましたね。笑

イケてるかイケてないか、成功者か敗残者か、クラスの人気者かイジメられっ子か。
なんかそんな判断基準が固定化されてしまっていて、アメリカの社会にいる限りどうやってもそれを意識するしかない……みたいな息苦しさへの反発が、これらの映画を生み出すんでしょう。

サイモンは、人から馬鹿にされて落ち込んでしまい「私ってバカかな?」と聞いてくるパティに怒ります。他人が勝手に押し付けてきた物差しを、絶対に受け入れるな!それこそがパンクロッカーが本当の意味で“負け”てしまったときなのですから。

そしてサイモンはパティを馬鹿にしてくる奴らをカッコよく返り討ちに……しようとして逆に地面に倒されてお空を見上げるハメになりますが、私はサイモンのそういうところが好き。その後に頭にきて卑怯で陰湿な手を使ってリベンジを果たすところは、もっと好きです。笑

人間の魅力ってすごく複雑です。情けないところとか、ダサいところとか、奇人変人なところとか。そういう部分が、その人の本当に惹きつけられる魅力だったりするんですよね。
でも「イケてるか、イケてないか」だけで人を見ていると、そこに気づかない。
途端に世界はすごくつまらなくて、無機質に見えるようになります。

映画はどうしても、一般ウケするイケメンとか美女を画面に配置しないと華がないからっていうんで、そういう人ばっかりが活躍しがちです。でも、この「ディナー・イン・アメリカ」のパティがその常識を打ち破ってくれました。彼女がサイモンと一緒に大暴れして、遊んで、笑って、キスするシーンは、そのへんのアイドルの恋愛シーンよりずっと観ていて楽しい!

普通のイケメンや美女がボコボコにされて情けない姿をさらし、服に猫のウンコくっつけたパティがスポットライトを浴びまくりです。天使のような声で「全員ぶっ飛ばせ」って歌ってるときのパティが可愛すぎる!

あとハンバーガーショップのシーンでは、サイモンがまさかの壁ドンを見せてくれます(この映画でイチオシのシーン)。

実は結構正統派のラブストーリー「ディナー・イン・アメリカ」。
大好きなバンドの、憧れ覆面ボーカルが私の家に転がり込んできて急接近?!的なストーリーに騙されて、この映画にハマっちゃう女子が1人でも増えるよう願っています。笑

みんな、インフルエンサーの真似ばっかしてないで、パティみたいにパンクに生きようぜ。そのほうが可愛いよ!(多分)

最後まで読んでいただきありがとうございました♪

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