ブラピとディカプリオのバディムービー。
2人が並んでキャデラックに寄りかかっているポスター画像をもう何回も観てるんですが、未だに夢を見ているみたいです。
子どもの頃に、TSUTAYAが出してた映画紹介のフリーペーパーで「日本で人気のハリウッドスターTOP10」という記事を読んで、男性部門の1位がブラッド・ピット、2位がレオナルド・ディカプリオだったのを今でもはっきり覚えています。
もちろん私もこの2人が大好きでした。ハリウッドスターといえばブラピとレオ様。
タランティーノ監督の作品ってほとんど観たことがないんですが、さすがはご自身もゴリゴリの映画オタクだったという監督。2人の魅力が詰まった大満足の1本を映画史に残してくれました。
アメリカ映画への愛と感謝を込めて、ネタバレ感想いきます。
鑑賞のまえに
2019年製作/アメリカ
時間:171分
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット
・アメリカ映画をテーマにした写真集を眺めているような感覚。ストーリーを追うというより、2時間51分ただひたすらカッコいい絵面に酔いしれましょう
・60年代のレトロなファッションや町並みがおしゃれ♪
・映画を理解するには、「シャロン・テート事件」についての知識は必須
・念のため注意喚起しておくと、過激な暴力シーンがあります(「ムカつく奴を映画の中でボコボコにしたい」というのがタランティーノ監督の原動力の一つなのでご了承ください)
あらすじ
リック・ダルトンはかつて西部劇のテレビスターとして活躍していたが、時代の変化についていけずもがいていました。彼の親友でスタントマンのクリフ・ブースは、今はリックの世話係をしながら彼を精神的に支えています。そしてリックの隣には人気監督のロマン・ポランスキーとその妻で女優のシャロン・テートが引っ越してきて、落ちぶれたリックとクリフとは対照的に、ハリウッドの華やかな世界を満喫しています。
リックは再起をかけてイタリアの西部劇に出演し、見事成功を収めました。イタリアでの最後の仕事を終え、ハリウッドに帰ってきたリックとクリフ。そして1969年8月9日の運命の夜、2人が酔っぱらっているさなか、とある事件が起きて…
感想
「Once upon a time…(昔むかしあるところに…)」というのは、子ども達をワクワクさせるおとぎ話の語り口ですね。お姫様とかお菓子の家とか、怖い鬼とかそれをやっつける桃太郎とか。素敵なものや楽しいものがいっぱい詰まったお話がこれから始まりますよ、と約束してくれる魔法の言葉なわけです。
というわけで、同じフレーズから始まるこの映画も心ときめくモチーフがいっぱい登場します。落ち目のテレビ俳優とか、ボロいトレーラーハウスとか、頭がおかしいヒッピーとか、薬漬けのタバコとか…あと火炎放射器とか(もちろん実演シーンあり)。
う~ん…これぞアメリカのメランコリックの王国。
というのは冗談ですけど、まるで子ども向けのおとぎ話みたいに「カッコいいヒーローが悪者をやっつけてくれる勧善懲悪の分かりやすいストーリー」に、大人がときめく素敵なものをいっぱい詰め込んで出来上がったのが、この映画なんだと思います。
だからこの映画に対して「ストーリーが浅くてつまらない」とか「時間が長くてダレた」とかいうのはナンセンスかな、と。子どもってヒーローとかお姫様が出てくるお話だったらずっと聞いていられるし、一度読んであげた絵本でも飽きずに「もう一回読んで!」とかしつこくおねだりしてきます。ああいう風に、童心にかえることで(?)深く楽しめる映画です。
60年代ファッションに身を包んだミニスカ&ブーツ姿のマーゴット・ロビーは超絶可愛いし、ザ・業界人を演じるまさかのアル・パチーノに「おおっ」と熱くなったり。西部劇の男たちの凄みのあるカッコよさも余すところなく表現し、ヒッピーたちがたむろする牧場のシーンの緊迫感もすごい。かと思えばアメリカ映画らしいジョークも満載で(イキってるブルース・リーをブラピが軽々と投げ飛ばしちゃったり)、緩急をつけて観客を退屈させません。
あとヒッピーたちのリーダーが馬で疾走するシーンは(無駄に)めちゃくちゃクール!このあたりはさすがアクション映画のタランティーノ監督という感じです。
また細かいところですが、リックが飛行機に乗っているシーンで、アメリカの写真家ウィリアム・エグルストンの有名なカラー写真作品(アイスティーに光が当たっている色鮮やかな写真)を再現したようなカットが挿入されたのに、個人的にはグッときました。こういうところにも、監督の“アメリカンカルチャーへの郷愁”みたいなものが感じられます。
「監督がこういうシーン撮りたかったんだろうな」「映画ファンが好きそうだな」みたいなシーンを詰め込んだオモチャ箱みたいなものです、この作品は。理屈抜きに楽しんでって感じ。
そして何と言ってもやっぱり、ブラッド・ピットとレオナルド・ディカプリオが親友同士として共演してるスペシャル感ですよね。それぞれの役のキャラクターも、いつもの2人そのまんまという感じで「この2人がコンビを組んでる!」と往年の映画ファンを素直に感動させてくれます。
ディカプリオ演じるリックは落ち目の俳優で、その現状に頭を悩ませて酒浸りの日々。(ディカプリオといえば眉間に皺を寄せて苦悩している表情がもうお馴染みです)
対するブラッド・ピット演じるクリフはリックのスタントマンで、リックの仕事が少ない今は、車で送迎したり家の留守番をしたり壊れたTVのアンテナを直したり、雑用係を引き受けています。
リックとの格差がけっこうひどくて、いかにも貧乏くさいトレーラーハウスに住んでいたりするんですが、そんなこともどこ吹く風という感じで飄々とした様子が、これまたブラピお馴染みのキャラクターですね。
良いときも悪いときも、いつも側にいて精神的に支えてくれる相棒。落ち目宣告されてやさぐれるリックをクリフが慰めるシーンも、何とかクリフに仕事をやってくれとリックがプロデューサーに懇願するシーンも、めちゃくちゃグッときます!この2人の関係は、見てて純粋に羨ましいなって思います。30代・40代になってもこれだけ距離が近い友達がいるって、大人のロマンじゃないですか?そんな素敵な関係をブラピとディカプリオで演じちゃうんだから、もう最高ですよね。
ざっくりとこの2人の友情の歴史をまとめると、リックがテレビドラマの主演俳優として人気絶頂だった頃からのパートナー。リックの仕事が下り坂になった今もなんだかんだ一緒にいて、週末は宅配ピザをとって昔の出演作品なんかに茶々を入れながら、ビールを飲んで過ごしています。全然女っけもセレブ感もないけど何か楽しそう(笑)。
そんな冴えないけど悪くない日常がずっと続くかと思われましたが、あるときリックの仕事と私生活に転機が訪れたことで、2人はパートナーシップを解消せざるを得なくなります。
そんな2人の長年の友情の最後の夜に、“とある事件”が起きて2人がそれを解決する、というのがこの映画のラストになっています。この“とある事件”というのが、この映画を観客におとぎ話として楽しんでもらうためのもう一つのポイントなのです。
この映画は、実際に起きた“女優シャロン・テート惨殺事件”を基にしています。ただし結末を事実と真逆にすることで、観客に一瞬の幸福感を、そしてその後にどれだけこの映画が楽しくても「お話の中だけの出来事に過ぎない」と思わせ、夢から覚めたときの寂しさを感じさせる仕掛けになっています。
1969年、当時人気上昇中だった女優シャロン・テートの自宅に、カルトに洗脳されたヒッピーたちが侵入して、シャロンと居合わせた友人を無残に殺害するという事件が起きました。殺害されたときシャロンが妊娠中だったこともあり、この事件にアメリカ中の人が心を痛め、犯人たちへの憎しみを募らせたのです。
映画の中では、このシャロンの自宅の隣にリックが住んでいて、ヒッピーたちはシャロン邸ではなくリックとクリフが酒を飲んで酔っぱらっているところに先に押し入ってくるという設定になっています。
まあ…後の展開は、極悪非道な敵×タランティーノ×ブラピ&ディカプリオという図式から誰でも導き出せる感じです。正直ネタバレしてもしなくても一緒よね。
かいつまんで言うと、ヒッピーたちはブラピに殴られ、犬に食いちぎられ、ディカプリオに火炎放射器で丸焼きにされます。さっきまで美しい映像とノスタルジックなストーリーで進んでいた映画の上に、いきなり大笑いしながらマシンガンを乱射するタランティーノが降ってきた感じ。マーゴット・ロビーのファッションに魅了されていた女性の観客なんかはここで完全に置き去りですね。なんや、この映画は…って、タランティーノ監督作品ですが、何か?(笑)
かくしてアメリカ中に憎まれた残虐なヒッピーたちは、ハリウッドの2大ヒーローによって完膚なきまでに叩きのめされ、お姫様・シャロン・テートは救われたのです。めでたし、めでたし。
…でも、もちろん、これはフィクションの中だけのこと。実際にはシャロン・テートの命も、そしてお腹の赤ちゃんの命も戻ってはきません。事実を知っているだけに思いがけないハッピーエンドを見届けて、ああ良かった~と胸を撫でおろした後、エンドロールを見ながら感じるこの寂しさの正体は一体何なんでしょうか?
これと似たつくりになっているのが、アガサ・クリスティーの傑作ミステリー「オリエント急行殺人事件」ですね。
この小説も実際にあったリンドバーグ事件(アメリカの飛行家リンドバーグの1歳の息子が誘拐され、後に遺体で見つかる)に着想を得て描かれたとされています。作中では、リンドバーグ事件の誘拐犯を彷彿とさせる人物が殺害され、主人公ポアロはその犯人が誘拐された子どもの関係者、しかも複数犯であることを突き止めます。しかし、物語のラストではポアロは子どもの死に苦しんだ彼らの心に寄り添い、その犯罪行為を見逃すという決断をするのです。
シャロン・テートの事件同様、リンドバーグ事件でも小さな命が残虐に奪われたことで社会全体にやり場のない怒りが湧きおこりました。リンドバーグ事件ではその大衆の怒りが暴走して捜査関係者や証人たちへの圧力となり、彼らは事件解決を急ぐあまり「正しいかどうかではなく、大衆が納得するかどうか」を基準に捜査を進めたり証言をしたりしたといいます。最終的に容疑者として逮捕された人物は、およそ考えられないような不十分な証拠で有罪が確定し、そして処刑されてしまいました。
悲惨な事件が起きたとき、許しがたい悪が目の前に現れたとき、大衆はどうしても自分たちを納得させてくれる結末を求めます。
だから「オリエント急行殺人事件」でポアロも死んだ子どもの復讐を容認し、「ワンス・アッポン…」でディカプリオはヒッピーを焼き殺したのです。(タランティーノの暴力描写はこういう絶対的な悪との対立構造で最高に輝きます)
これらのフィクションは大衆の怒りや傷を癒やす役割を果たしていました。でもフィクションはあくまでフィクションですから、お話が終わってしまえば夢から現実に戻るしかありません。
シャロン・テートが救われたおとぎ話から、悲しい事件が起きてしまって数十年後の現実の時間軸に戻ってきたとき、さっきまで目の前でイキイキと輝いていた「ワンス・アッポン…」の世界すべてが急に遠く儚いもののように感じられます。この鑑賞後の切なさもひっくるめて、「ワンス・アッポン・タイム・イン・ハリウッド」は唯一無二の魅力をもった映画です。
いや、本当にブラピ&ディカプリオの夢の共演が、この作品でよかった。この作品以外あり得ないとすら感じます。映画ファンのためにも、これからもこういう味わい深い作品が増えればいいな、と思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪
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