16世紀の高貴なるシスターフッド~「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」~

歴史

歴史ものの映画が大好きなんですが、何が魅力って作り手の豊かな想像力が感じられるところです。「この人ってこんなキャラクターだったんじゃないかな」って、頭の中で歴史上の人物を作り上げていくの、ワクワクしますよね。

王様も女王様も1人の人間ですから、それぞれに性格とかコンプレックスとか夢があったはず。彼ら彼女らが公にはできなかった、そうした人間的な部分は、今となってはわずかな手がかりから想像するしかありません。

この映画「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」も、2人の女性のキャラクターがかなり自由な発想で作られていると思います。

でも決してデタラメな創作というわけではなく、実際に彼女らがやり取りした書簡に基づいて、2人の女王の間に連帯感があったと考察する本を原作として作られているんですよ。

だから、ひょっとして本当に2人の間に16世紀なりのシスターフッドがあったのかも…と想像すると楽しい!(私はスコットランド女王メアリーとエリザベス一世の関係というと、「ジョジョの奇妙な冒険 第一部」に出てくるアレしかイメージがないので、この映画はすごく新鮮でした)

というわけで、特に女性におススメの歴史映画「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」のネタバレ感想、いきます。

鑑賞のまえに

2018年製作:イギリス

時間/124分

監督/ジョージー・ルーク

出演/シアーシャ・ローナン、マーゴット・ロビー、他

・16世紀の2人の女王の心情を現代的に解釈。今を生きる女性たちが共感できる映画です

・これまでとは一味ちがったスコットランド女王メアリーとエリザベス一世の関係性が新鮮

・歴史ものらしく衣装は華やか!シアーシャ・ローナンの美しさにひたすら見惚れます

・マーゴット・ロビーとシアーシャ・ローナンという2大若手女優の競演は、それだけで観る価値あり!

感想

女同士の関係性って、けっこう難しいものがあります。

中学生・高校生のテンションで「私たち仲良し~!!」ってハシャいでても、どっちかだけがモテたり、フォロワーがいっぱいついたり、先に結婚して出産してマイホームを買ったりとかしただけで、簡単に友情が壊れちゃいますから。

あらゆるライフステージを駆け抜けていくなかで、死ぬまでずっと友達~♪でいられる関係は意外と稀。相手のほうが幸せそうに見えたとき、心の中には妬みやモヤモヤが生まれるものです。どれだけベタベタしてるように見えてもね。

ましてや、生まれながらにして何をどうやっても仲が悪くなるしかない、という立場に置かれた女同士ならなおさらでしょう。

まず、この映画に登場する2人の女王・メアリーとエリザベスは、イングランドの正当な統治者の権利をめぐって対立する立場にあります。

実際にイングランドの王位に就いているのはエリザベスですが、彼女は母親が反逆罪で処刑されたという経緯から、長い間王位継承の見込みはないと考えられていました。しかし父親から王位を継いだ弟、次いで姉が子どもを遺さずに亡くなったことで、いわば繰り上げ当選で女王になってしまった形です。

反逆者の娘というハードなバックグラウンドを持つエリザベスに対し、メアリーはいわば血統書付きの正統派お姫様。ヨーロッパの大国・フランスの王太子妃でもあったという箔もついていて、「私とエリザベスでは格が違う」という認識があったことはまず間違いないでしょう。

そしてエリザベスはメアリーに対して劣等感があったはず。この時代には美貌よりも何よりも、まず血筋が物を言うわけですから。何かある度に「庶子」扱いされて陰口を叩かれていたであろうエリザベスにとって、誰からもケチのつけようのない出自を持つメアリーは脅威であり、うっとおしく思っていたに違いありません。

そんなメアリーが嫁ぎ先のフランスから戻ってくるやいなや「私のほうがイングランドの王位を継ぐのにふさわしいと思うんですけど?」と匂わせてきたら、そりゃ険悪にもなるでしょう。

…と、まぁ、ここまではさして目新しくもない話。この映画がユニークなのは、女王という立場とは別に、2人の女同士としてのライバル関係を強調したこと。さらに互いを恐れ、憎み続けた先に、孤独な女同士として共感し合う不思議な連帯が生まれた、と想像力豊かに描いているところです。

メアリーとエリザベスの関係は、現代に生きる私たちに置き換えて考えるとすごくしっくりきます。

小さい頃から美人で人気者で、家柄の良い男性に嫁いで、都会で幸せに暮らしていたメアリー。夫と死別した後に田舎に戻ってきてからも、華やかで自由奔放で皆の注目を集め、条件の良い相手とまたすぐに結婚する。

かたやエリザベスは複雑な家庭で生まれ育ち、蔑まれたり敵意を向けられたりすることが多かった青春時代。知性を武器に仕事では成功を収めているけれど、キャリアの障害になることを恐れて結婚もままならない。そして都会から戻ってきたメアリーには見下され、「あなたのポジションは、本来私のほうがふさわしいわよね?」なんて言われる始末。

何とかメアリーにマウントとってやろうとして、「あなたには私のお下がり(失礼)がお似合いよ」と、自分の彼氏をメアリーの再婚相手の候補としてチラつかせるも、メアリーからは小馬鹿にされて、てんで相手にされません。さらにエリザベスは、病気の後遺症で髪が抜けて顔が崩れたことで、急に「メアリーに彼を盗られる!」と発狂してわめき出します。痛々しくて、彼からの同情の眼差しも辛い…。

挙句の果てにメアリーがとんとん拍子で出産すると、周りから「メアリーはもう子どもも産んでるんだよ、お前も早く結婚しないと」と圧をかけられる。外見は病気でボロボロだし、妊娠も難しくなりつつある年齢なのに。もう生きてるのも嫌になるレベルで、エリザベスにとってはキツい状況です。

ですが、順風満帆に見えたメアリーの人生も、ここから坂を転げ落ちるように下降していきます。まず散々甘い言葉でアプローチしてきた夫は、実はメアリーが相続した会社の経営権だけが狙いだったと判明。結婚式を挙げたその日のうちに、彼女の大親友と浮気してしまいました。メアリーは激怒するも、立場上今さら離婚もできません。とにかく早く妊娠しなきゃ!と焦って、冷めきった夫をたきつけて血眼になって妊活に励みます

この流れ、わりと美人のお嬢様の転落あるあるですよね。これまで恵まれていた分、メアリーが受ける屈辱感はかなりのものでしょう。

この時点でもかなり悲惨な状況ですが、何とか子どもが産まれて一安心…かと思えば、私生活でゴタゴタしているうちに会社の中の反メアリー勢力が急拡大していて、気づけば周りは敵だらけ。夫はその勢力の旗頭にされていて、家庭の中にも安らぎはありません

そんな状況でも未だ夫に情があったメアリーですが、敵対勢力の陰謀で夫を殺されてしまいます。さらに好きでも何でもない部下と無理やり再婚させられて、それをスキャンダルとして広められて、彼女の評判は地に落ちます。今では「人気者のメアリー」は影も形もなく、尻軽で腹黒で最低の女というイメージが定着してしまいました。

つまりは一見幸せそうなメアリーも実は男たちにズタズタに傷つけられていて、エリザベスのようにずっと変わらぬ愛を捧げてくれている恋人もいない分、より孤独で惨めな思いをしているのです。これまでメアリーの存在を脅威に感じていたエリザベスも、どんどん転落していくメアリーを見て嫉妬や競争心、恐れ以外の感情が湧いてきます。

男たちに煽られて彼女と対立してきたけど、本当は彼女と私は同じ。自分の思い通りの人生を生きることができない生きづらさは、お互いにしか分からない」という思いを抱くようになるのでした。

一方、幸せ全開だった頃のメアリーには、多分エリザベスに共感する気持ちなんてなかったと思います。けれど女王としてスコットランドに戻って、裏切りや抑圧に日夜苦しめられることになったとき、この気持ちを分かち合えると思う相手はただ1人、同じ立場のエリザベスだけだと気づいたのでしょう。

女王の位を守り抜いているけれど、その代償として母になることを諦めざるを得なかったエリザベス。母親としての幸せは得たけれど、それ以外のすべてを失ったメアリー。対照的なようでいて、自分の望む人生を送れなかったという点では同じ。この時代に、王位継承者として生まれてしまったがために。

現代の女同士でもよくある話です。「彼女は幸せな家庭を築いていて羨ましい」「彼女にはキャリアも収入もあって羨ましい」。顔には出さないけれど、長年相手に対する劣等感を抱え続けてきた2人が、行き着いた先の晩年に、結局どちらも不幸な人生だっということに気づく。もうほとんど何の意味も成さないのですが、2人の女の間にはそのとき初めて純粋な友情が生まれます。

この映画の終盤には、エリザベスとメアリーが秘密の会合をするシーンがあります(これは歴史的には記録がなく、映画の完全創作のようです)。2人の間に幾重もの白い幕があり、なかなか互いの顔が見えない中で、探るように会話をするのが印象的。特にメアリーに対して容姿のコンプレックスがあったエリザベスの、心の壁を表現しているようでもあります。

美しさでは勝っているという自信があるメアリーは、顔を見せることを恐れずに幕をどんどん取り払っていきます。映画の最初のほうに、エリザベスとメアリーがそれぞれ相手の肖像画を吟味するシーンがありましたが、そこでメアリーは女としての自分の優位を確信したということなのでしょう。このあたりは女性の心理を細かく、かつ正確に描写していますね。

そしてやっと素顔で対面したとき、エリザベスは真っ赤な鬘を外して、老婆のような醜い頭をむき出しにします。天然痘のあとを隠すための白塗りの顔といい、ぞっとするほどグロテスクな姿。自分のほうが美しいと確信はしていたメアリーも、その無残な外見にしばし言葉を失います。

エリザベスは今メアリーの生死を握っていて、王としての戦いでは彼女に軍配が上がりました。だからこそ、女として完全に負けていることは認めることができたとも考えられます。

「もう、私はあなたを羨まない。あなたは自分の美点によって身を滅ぼすことになったのよ」

メアリーは不利な立場に置かれているがゆえに、プライドが邪魔をして居丈高な態度をとっていましたが、エリザベスが弱みを見せたことで、自身も歩み寄ろうとします。女同士としての連帯を訴え、エリザベスに派兵を要請しました。

しかしメアリーに共感する気持ちはあっても、エリザベスには個人的な感情で軍隊を動かすことはできません。常に統治者として合理的な判断をすることで生き抜いてきたエリザベスは、メアリーの王位を取り戻してやることは賢明でないと分かっていました。それどころか、メアリーが自分の手の中に落ちた今となっては、最終的には彼女の命を奪わざるを得なくなるということも直感的に理解していたと考えられます。

だからこそ、これがメアリーと個人的に話す最初で最後の機会と分かっていて、一瞬だけ自分の弱さを見せたのでしょう。それがエリザベスにできる、精一杯の女同士として連帯を示す方法だったのです。

メアリーの訴えに対するエリザベスの答えはノーでした。互いの心を見せたところでエリザベスの女王としての判断は揺らぐことがないと見て取り、メアリーは今一度自分の置かれた立場の危うさを意識します。

「忘れないで。私を処刑するということは、自分の妹を殺すのと同じことよ」。この言葉は、エリザベスを最後まで苦しめることになるのでした。

映画はメアリーの処刑の場面で締めくくられます。絵画にもなっている歴史的に有名なシーンですが、そこに至るまで、2人の女王の間にどのような感情の動きがあったかを思うと、これまでとはまた違った見方ができるのではないでしょうか。

処刑人の斧がメアリーの首を断ち切ったとき、エリザベスにとってこの世界で唯一「分かり合える」と思える存在が失われました。この世で女としての人生を謳歌し、思う存分に母性を発揮することができた、もう一人の自分。立場が違えば、自分が彼女のようになっていたかもしれないと心密かに夢想していた、魂の片割れ。エリザベスの喪失感は、どれほどのものだったでしょうか。

表面的には仲良く振る舞っているけれど、胸の中は妬み嫉みでいっぱい…というのは、現代の女同士でありがちな関係。今を生きる私たちには、こちらのほうが馴染みがあります。

一方、16世紀の宮廷に生きたメアリーとエリザベスは、どうやっても対立せざるを得ない状況に置かれながら、胸のうちには互いへの共感の気持ちがあったのかもしれません

現代の私たちと2人の女王。そのどちらの関係のほうが、本当の意味での“友情”と呼ぶにふさわしいのか。何気に胸に刺さる映画でしたね。

プライドの高いメアリーと、コンプレックスの塊であるエリザベス。この映画を観て、自分がどちらにより共感できるかを確かめてみてもいいかもしれません。16世紀だろうと令和だろうと、女の人生は楽じゃないです、ほんと…。

ちなみにこの映画の舞台設定に惹かれたら、ナタリー・ポートマンがエリザベスの母親・アンを演じている「ブーリン家の姉妹」とか、ケイト・ブランシェットの「エリザベス」とかもおすすめですよ!歴史映画最高、もっとファンが増えてほしい♪

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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