産後鬱のお話ですね。
でも大きなくくりとしては“必死に努力しても、なりたい自分になれないもどかしさ”みたいなものがテーマなので、出産や子育ての経験がない女性でも十分楽しめます。
(むしろ子供を持つまえに観て予習しておくことを熱烈に推奨!)
何と言っても産後の女性の身体をリアルに表現したシャーリーズ・セロンの役づくりがすごい!めっちゃブヨブヨのお腹を揺らしながら走る姿は24時間テレビより感動します。
これがあの「スイートノーベンバー」の女優さんかと思うと…そのプロ根性にただただ涙です。
見ていて息苦しくなりそうなシーンもあるけど、基本はハッピーで元気をもらえる映画。シャーリーズ・セロンへの愛を込めつつ、ネタバレ感想いきます。
鑑賞のまえに
2018年/アメリカ
時間:95分
監督:ジェイソン・ライトマン
出演:シャーリーズ・セロン、マッケンジー・デイヴィスなど
・子育ての大変さがリアルに描かれている、ママたち共感系ムービー
・“子育て中の生活ってこんな感じ”という教材にもなる
・というより「若い頃に夢見ていた30代・40代と何か違う」って思ってるすべての女性に観てほしい
あらすじ
マーロは3人目の子供を出産し、育児に追われる毎日を送っていました。夫はマーロの大変さを理解しておらず、夜はゲームに夢中。あまり手伝ってくれません。また長男は発達障害があり、学校から転校を勧められたことがさらにマーロを追い詰めます。マーロは兄からナイトシッターを勧められて最初は断りましたが、精神的にも肉体的にも限界に達した彼女はシッターに頼ることにしました。
ナイトシッターとしてマーロの前に現れたのは、タリーという若くエネルギッシュな女性でした。タリーは夜中だけマーロの家に来て、赤ちゃんの世話をしてくれます。マーロは最初は奔放なタリーに不信感を抱きますが、次第に心を開いていきます。タリーは赤ちゃんのお世話だけでなく、マーロの悩みや日々感じていることに優しく耳を傾けてくれました。やがてマーロはタリーとの時間が心の支えになっていきますが…
感想
今って「子育てってこんなに大変なのよ!」系の漫画とか多いですよね。外側からは苦労が見えにくい世界なので、それを主張するのはすごく大切だと思うんですが…正直、当のママさんがすごく綺麗にしてて(月1でヘアサロン行ってそうな髪、爪の先までキラキラとか)友達とおしゃれなカフェでお茶しながら「大変なの~」とか言っててもイマイチ共感できないのは、私の性格が悪いのでしょうか?笑
その点、この映画の主人公マーロはめっちゃリアルです。
とにかく産後のたるみきった身体がすごい。顔の大きさの何倍もありそうな、ぶよ~ん!としたお腹にもう目が釘付け。娘にも「…ママ、その体どうしちゃったの?」と引かれまくっています。
ドスッドスッと腰骨が開いた歩き方もリアルすぎて「やめて~!」って目を覆いたくなるよ。
一日中赤ちゃんのゲロがついたボサボサのカーディガンを着ているマーロを見ると、どのママさんも「そうそう、これこれ」って共感できること間違いなしです。
家のこと全然やらない旦那が、仕事から帰ってきて開口一番「冷凍ピザかよ」って夕ご飯に文句つけても、マーロにはキレる気力すら残っていません。多分このとき目の前で旦那が死んでも、反応するのにちょっと時間がかかったでしょうね。それくらいもう子供のお世話で頭がいっぱいです。
マーロは人に頼るのが苦手な性格です。他人に頼らず自分でやろうとする人にも色々なタイプがあると思います。自分に自信があって完璧主義者な人もいるし、自分でやらないとダメだと思い込んでる人もいます。
でもマーロは何となく“人に心を開くのが苦手だから、頼ったり甘えたりできない”タイプかな。若い頃のルームメイトとのギクシャクや、お金持ちになった兄弟との微妙な距離感からそれを感じます。人間関係が不器用なタイプですね。こういうところも完璧主義者なヒロインよりも観客がマーロに共感しやすいポイントなのかも。(私も共感しまくってました)
そんなマーロが唯一無条件に心を開いて頼ることができるのは、自分自身だけ。ネタバレしてしまうと、3人目育児でもう限界!ってなったマーロのところに一人のベビーシッターが現れます。疲れたマーロの心に寄り添ってくれて、赤ちゃんのお世話の合間に家事も完璧にこなしてくれる。おまけにちょっぴりセクシーに夫婦関係の修復までしてくれるパーフェクトシッターなんですが、このベビーシッターは実は若い頃のマーロ自身でした。つまり他の人には姿が見えない、マーロの頭の中だけに存在するイマジナリーシッターなのです。(当然このシッターがやってくれていたという家事や育児は実際にはマーロが一人でこなしていて、マーロは最終的に過労でぶっ倒れます)。
マーロとベビーシッターのタリーは子供の世話を介して対話を重ね、次第に人生や女性としての幸せについても語り合うようになります。タリーは基本的に優しいので、今のマーロを全肯定。記憶がおぼろで正確なセリフは覚えていませんが「子供のお世話をして終わるだけの毎日はつまらないように思えても、とても尊いものだよ。あなたのその生き方が子供たちへの最高の贈り物なの」的なことを言っていました。
でもこのセリフ、本当に20代の頃のマーロが今の自分の姿を見たときに心から出てくるものとは思えないんですよね。タリー=20代のマーロは自由奔放な女性です。好奇心のままに興味を持ったことには何でもチャレンジし、恋愛も一人の男性に縛られることなく同時並行で何人も付き合っちゃうタイプ。将来の夢だって、漠然とでももっと華やかな自分をイメージしてたんじゃないかな。
正直、もし本当に20代のマーロが今のぶよぶよの自分を見たら「こんなの嫌だ」ってなると思います。でもタリーはあくまでも現在のマーロが作り出した存在です。マーロは一番輝いていた頃の自分に「あなたはすごい、偉い、頑張ってる。尊敬してる!」って言われたいのでしょう。もっと言えば「これで良かったんだよ」って納得させてほしいんです。
さらにバーで飲みすぎて酔っぱらったマーロは、タリーに向かって罵声を浴びせます。「あなたの輝きは若いうちだけのものよ!そのうちお尻が垂れさがって、その奔放な性格だって見苦しいって言われるようになるんだから!」。この言葉も、タリーが若い頃のマーロ自身だと判明してからは、魅力的なタリーのままで大人になることなんて不可能だったんだとマーロが自分を納得させたくて発した心の叫びのように思えました。(それに対して「年を重ねることは恐くないわ」とキリっとした表情で返すタリーは、何となく「クレヨンしんちゃん 大人帝国の逆襲」の野原ひろしを思わせるカッコよさ)
結局マーロは今の生活も、今の自分もどうしても好きになれないんです。
そりゃそうですよね。自分が一晩中赤ちゃんのお世話に追われてボロボロになってるのに、旦那はずっとヘッドホンしてゲームをピコピコ。兄貴の嫁はセレブ妻オーラ全開で何か上から目線で子育てについて語ってくるし。でも今ひとつ自分に自信がなくて、そいつらにビシっとやり返すこともできない。そしてそういう奴らに神経を削られてるせいで、つい子供に怒鳴ってしまう。そんな自分を受け入れられるはずがありません。
タリーはそんなマーロを常に母親として高く評価し、彼女の悩みやモヤモヤを優しく受け止めてくれました。それこそ必死に毎日を過ごしているマーロが必要としていることだったのですが、結果的にタリーと対話を重ねることで「このままじゃダメだ、私変わりたい」という気持ちが高まったのではないでしょうか。
“今の自分を全肯定してほしい”という甘えと、“前に進みたい、変わりたい”という気持ちのせめぎ合い。その結果が、タリーとのお別れという形になったのかなと思いました。マーロが夢で青い海のなかを泳ぐ人魚を見るシーンがありますが、この人魚は“変身”の象徴だそうです。産後の思い通りにならない身体をかかえた女性が、海の中で優雅に泳ぐ人魚に変身願望を託すのって、何か分かる気がします。リアルな描写が多い映画のなかで、この幻想的なシーンは観る人に深い印象を残します。
40代の3人の子持ちの女性が変わるって簡単じゃないです。基本的に子供のお世話で手一杯ですからね。だからマーロの変化も劇的なものではなく、少しずつ、少しずつ。ポンコツ夫を無視するのではなく、ちょっと一緒に料理をしてみたり。子供のマッサージの習慣も作業としてこなすのではなく、子供と向き合ってみたり。それは外から見ると気づかないほどの変化かもしれないけれど、とても尊い変化です。「どうせ20代には戻れないんだからもうどうでもいいや」じゃなくて、「今よりちょっとでも自分を好きになれるように」。
一度とことんまで自分の生活に嫌気がさして絶望してからこんな風に立ち直れるって、やっぱりマーロは素晴らしい女性なんだなと思いました。イタリア語でも何でもチャレンジしたエネルギッシュな20代は無駄じゃなかった。20代のときに夢見た姿とは違ったとしても、今の自分が若い頃の延長線上にあることは確かなんですよね。
…しかしこの映画を観ていると、共働きっていう夫婦の在り方についても色々考えさせられちゃいますね。マーロの兄夫婦は涼しい顔で育児と仕事を乗り越えているように見えますが、それはお金がたっぷりあってシッターに育児の大部分を丸投げできるからという見方もできますし。マーロみたいに親の全面的なフォローが必要な子どもがいて、夫が気遣いのできないポンコツだと、働いている母親って地獄じゃない?
日本より夫婦共働きスタイルが根付いているはずのアメリカのリアルがこれだとしたら、女も子供を産んだらすぐ復帰して働け働けって、やっぱり無茶言ってるんだよなぁ~と考えさせられました。
最後まで読んでいただきありがとうございました♪
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