hetarepanda

ドラマ

「幸せだ」と思える、その心ほど恐ろしいものはない~「幸福しあわせ」ネタバレ感想~

つまり、フランソワにとっては映画の始まりと終わりを比較して、何も失ったものなどないのです。彼は映画の最後でも完全に“幸福”な状態に置かれています。 一緒にいるのがテレーズだろうとエミリだろうと、それは問題ではない。 自分の妻であり、子ども達の母親であればそれでいい。 ああ、また僕は何一つ欠けることのない、完璧な幸せを手に入れた…と満足しています。
近未来SF

リプレイスメントの本当の目的とは?~「もっと遠くへ行こう」ネタバレ感想~

この乱暴なあらすじをさらに要約すると… 【第一幕】本物の妻×本物の夫=不幸な結婚生活 【第二幕】本物の妻×AIの夫=幸せな結婚生活 【第三幕】本物の妻×本物の夫=やっぱり不幸な結婚生活 【第四幕】AIの妻×本物の夫=幸せな結婚生活 つまり、オンリーワンな人格を持った人間なんかと暮らすより、自分にとって都合のいい人格に作り上げたAIと暮らすほうが、人は幸せになれるってことなんですよね。
ラブストーリー

青春に正しさは求めない~「マッド・ラブ」ネタバレ感想~

実際にマットとケイシーがオープンカーを走らせる場面には現実の悲壮感というものがなく、ただただ若いカップルの幸せだけが伝わってきます。ジャケットにも使用されていた、ケイシーがオープンカーの上で飛行機のようなポーズをとって風を感じるシーンは、完全に「タイタニック」のアレのロードムービーバージョンですね。
近未来SF

イカロスこそ人間のヒーローだ~「スピリッツ・オブ・ジ・エア」ネタバレ感想~

「映画「バグダッドカフェ」の作風で、長編アニメ「オネアミスの翼」みたいな作品を作ってください」 生成AIにそういう指示を出したら、こんな映画が出来上がりました……というのは冗談ですが、個人的にはこの2つの映画をめちゃくちゃ思い起こさせる作品でした。 「オネアミスの翼」のほうは「そうか???」と思われる方も多いと思いますが、「オネアミス」が当時まだ無名だった天才クリエイターたち(庵野秀明など)が自分たちの好み100%で作り上げた作品、というのは有名な話。
ドラマ

芸術にとって邪魔なもの~「デリシュ!」ネタバレ感想~

マンスロンは最高の料理を作ることに人生を捧げた男です。彼の生きがいは美食の追求であり、そのためには高級な食材や最高の設備を用意できる、貴族の後ろ盾が必要不可欠なのです。マンスロンにとっては「美食=貴族に提供するもの」というのが当然の認識で、自分自身のためにも公爵の城に戻るしか道はないと考えています。
ドラマ

権威を、否定しろ~「セッション」ネタバレ感想~

フレッチャーは分かっているのです。最初に持ち上げておいて、いきなりどん底に突き落とすやり方が、相手のメンタルに最もダメージが大きいことを。暴言や暴力というものは確実にエスカレートしていく習性があります。とくに立場の弱い相手に対する虐待は、一度決定的な線を踏み越えてしまうと、もう自分では止められなくなります。(そのあたりの表現はドイツのトラウマ映画「es」の得意とするところ)
ドラマ

~親だって、人間だもんな by のび太~「秘密の森の、その向こう」ネタバレ感想

子どもの頃の親と、ごく普通の友達として一緒に遊ぶって素敵な体験ですよね。でも私たち日本人はネリーとマリオンに出会うまえから、とある漫画の中でこれと似た体験をしています。子どもたちの「こうだったらいいな」を簡単に叶えてくれる存在…そう、ドラえもんです。
ドラマ

私たちは、ただ考えてほしいだけ~「プロミシング・ヤング・ウーマン」ネタバレ感想~

この映画の結末については、好みが分かれるところだと思います。これまで相手に言葉で伝えようとする姿勢に徹してきたキャシーが、いよいよ加害者であるアルに対しては暴力で思い知らせるのかと思われました。実際、そのほうが観客にとってはカタルシスが感じられて、映画としては人気が出たかもしれません。
ドラマ

記憶の底には、素晴らしい宝物が眠っている~「ぼくを探しに」ネタバレ感想~

マダム・プルーストはポールが言葉を話さず人に心を開かない理由を、「壊れた蓄音器と一緒で、同じところをグルグル回っているだけ。このままじゃ2歳児のままよ」と話していました。ついでに「あの子に必要なのはコレ」と言って蓄音器を蹴っ飛ばしていましたが、ポールの人生を動かしたのは蹴りではなくて、記憶の底に隠されていた両親との温かい思い出だったのです。
コメディ

スリルと哀愁、そして笑いのせめぎ合い~「ディック・ロングはなぜ死んだのか」ネタバレ感想~

さっきから茶化しまくって書いてますけど、映画ではこのへんのシーンはすごく緊迫感をもって描かれていて、それがまた逆に笑いを誘うんですよね。多分誰もが経験したことがある「都合の悪いことを隠そうとして小手先でごまかそうとすると、次から次へとボロが出て窮地に陥る」という状態。ジーク目線でスリリングに描くことで、観客が感情移入しやすくなっています。