デヴィッド・フィンチャー監督の映画大好きです♪
どれも観終わったあとに「ああ、映画観たなぁー!!」っていう満足感があります。
お肉食べたいな~という気分のときに、お腹いっぱい焼肉を食べたみたいな。
今回は、そのなかでも世界観が突き抜けている「ファイト・クラブ」の感想を。
ネタバレなしに、一ファンとしての愛と感想で埋め尽くしていきます!
鑑賞のまえに
1999年製作/アメリカ
時間:139分
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ブラッド・ピット、エドワード・ノートンなど
・仕事で疲れているときや深夜に観て、サブリミナル的に脳みそに刷り込みたい
・マッチョなブラピが好きな人にはこの映画を(優しくミステリアスなブラピは「ジョーブラックによろしく」を)
・暴力シーンが多いけど不快な感じはしないよ!みんな楽しそうだし何か爽やか(?)!
あらすじ
大手自動車メーカーに勤める主人公は、日夜不眠症に苦しめられていました。あるとき担当医師の言葉をきっかけに、難病患者のカウンセリンググループに病気を偽って参加します。主人公はそこで参加者同士心を開いて涙を流すことで、ストレスから解放されて夜熟睡できることを発見しました。しかしグループの中のマーラという女性が自分と同じ偽患者だと知った途端に、主人公は心を開いて泣くことができなくなり、再び眠れない夜に苦しめられることになりました。
そんなある日、主人公は出張先の飛行機の中でタイラーという男性と知り合います。その後、仕事が終わって帰ろうとすると、自宅マンションが何者かに爆破されてしまったために行き場を失い、タイラーの家に泊まることになります。タイラーは家に泊めるかわりに主人公に自分を殴ってほしいと言い、2人はバーの裏で殴り合いを始めました。2人のファイトの様子は人気を集め、周囲に人が集まるようになり、やがて地下室でファイトを目的とした秘密結社ファイト・クラブが誕生します。主人公はタイラーの家で暮らし始めますが、あるときそこにマーラがやってきて…
感想
「俺たちはライフスタイルに仕える奴隷だ」ー私にとってこの映画は、もうこの一言に尽きます。
映画序盤でマンションの自宅を爆弾でフッ飛ばされ、こだわり抜いた家具や最新家電、高級ブランドの衣類の数々を失った主人公。“パーフェクトな生活”が一瞬で無になって途方に暮れる主人公に、ブラピはこう言い放ちます。
「寝てるあいだに女に×××を切り落とされた男もいる」
主人公はややあっけにとられて「いや、それはそうだけど…」。当然の反応ですよね。笑
でもこれ、ブラピが言いたかったのはお決まりの「アフリカには飢えた子供達が…」的な慰めではなくて、痛みや肉体に比べれば、“物”なんて大したことないだろってことです。
この映画のブラピは、消費文明に振り回されている私たちの価値観を破壊し、人間本来の生き方を取り戻すよう啓蒙するカリスマ的存在です。相手が目を覚ますまでぶん殴って、銃を突きつけて、危ない薬品をぶっかけてきたりするので、早めに覚醒しないと危険。笑
「殺人や貧困を誰も気にとめない…それよりもアイドル雑誌やデザイナー下着や毛生え薬やダイエット食品」「それとガーデニング」「ガーデニングなんかクソ食らえだ!」
いや、本当にその通り。現代を生きる私たちは、本来要りもしないものを買わされるシステムに組み込まれています。“憧れのライフスタイル”という、実態がよく分からないうえに、なんか毎年その姿が変わるようなご神体を崇め奉り、せっせせっせとお布施をしているようなものです。今季のトレンド?いや、知らんがな。去年買ったやつはどうしろっつーの?
何でこんなことになってしまったかというと、新しいものをどんどん作ってどんどん買ってもらわないといけないからなんでしょう。みんな生きていくのに必要なものはすでに持っているので、売る側は不要なものに付加価値をつけてニーズを生み出さないといけない。そうしないと儲からないし、生活が成り立たない人がたくさんいるからです。そして消費者は基本いつも退屈して刺激を求めているので「次はこれを買いなさい」と言われると、大喜びで飛びついていきます。
NHK「映像の世紀」で、大戦後のアメリカは空前の好景気に湧き「人々は必要なものを買うのではなく、隣人と競い合うためにこぞって贅沢なものを買い求めるようになった」とナレーションが語るシーンがありますが、100年近く経った現代も未だにそんな感じ。というよりも、SNSなどで有名人以外のごく普通の人の日常も広く配信されるようになったために、状況はさらに混沌としています。隣人の生活を覗き見て「私ももっとオシャレなものを買わなくちゃ!」と焦ると、すぐ下の広告をポチれるようになっている、と…実に合理的に作り出されたカオスです。
「人から馬鹿にされないためにはコレを持っておかないと」「こういうの着てたら羨ましがられるよ~」「こういう家に住んでたら幸せそうに見えます」と煽りまくる広告の文句が、そのまま現代人の行動指針です。
映画の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」ではディカプリオ演じる主人公がウォール街を破竹の勢いでのし上がっていきますが、そんなにお金を稼いで何がしたかったのかは結局よく分かりません。豪邸・美女・ヨット…そういう“ザ・金持ちの生活”を追って追って追い続けていただけ。でもそんなディカプリオの姿に違和感を抱く観客は少なかったはず。なぜなら現代では理想のライフスタイルを実現することこそが、人生の意味だから。
この「自分たちは、勝手に作り上げられたライフスタイルというものに振り回されているんじゃないか」という疑問(というより不満や怒り)から、この映画はスタートするのです。
おしゃれな北欧家具の奴隷。ライフスタイルに仕える奴隷。どの時代よりも自由に生きられるはずの現代人ですが、実態はこの消費文明における新しい形の奴隷だった、という確信が主人公の原動力になっていきます。
「人間はみんな何かの奴隷なのさ」というのは漫画「ヴィンランド・サガ」の中の名台詞ですが、実際こんなに頭数の多い群れで、それぞれが本当に自由に行動していたら収拾がつきません。だから、大衆の行動をある程度何かでコントロールする必要があるわけです。それがムチや銃から“おしゃれなライフスタイル”という価値観にすり替わっただけ。自分で自由に生き方を選択しているようでいて、実はそうじゃない。限られた命を、肉体を、ライフスタイルというものに仕えることで消費させられています。
ブラピと主人公はそれに抗って「人間の価値は口座の残高やファッションじゃない」と訴え、周囲を巻き込みながら夜ごと殴り合いを続けます。傷だらけの顔で出勤し、上司や同僚たちに奇異の目で見られる主人公。主人公の目には、そんな周囲の人々をかえって見下すような色が浮かんでいます。何といっても男には傷跡が必要なのです。同じように鍛えた体でも、おしゃれなジムに通うスベスベお肌のメンズは、ブラピと主人公にとって軽蔑の対象です。「あれが本物の男か?」と鼻でせせら笑います。
「殴られることで本当の自分が分かる」。これがファイトクラブの出発点です。どこを向いても物を買わせようとする広告だらけの生活、一回きりの使い捨てグッズに囲まれて終わる一日、人間の死でさえも単なる数字として扱い計算するだけの仕事…嘘っぽくて薄っぺらい世界にがんじがらめにされている状態から、殴られる痛みによって目覚めようという試みです。
映画の後半ではファイトクラブはもっとグローバルに展開していき、さらに皆が大好きなあっと驚く展開もあったりして見どころ満載ですが、私はとにかくこの前半部分が好き。社会に変革を起こすことよりも、一人の人間のなかで起きる大きな変化に惹かれます。
映画中盤で、ブラピがどっかのお店のアルバイト店員さんに銃をつきつけ「元はどんな職業を目指していたのか」と問うシーンがあります。店員さんがかつて夢に見ていたのは、獣医になること。そのためにコンビニで働きながら市民大学で生物学の勉強もしていました。
けれど今はその夢も諦めてしまったという店員さん。ブラピは銃をしまい、免許証の住所をチェックしながらこう言い渡しました。「6週間後に獣医の勉強をしてなかったらぶっ殺す」。そのまま走り去っていく店員さんがその後獣医の勉強を再開したのかどうかは不明ですが、一度死にかけたことで「自分が本当にやりたいことをできないまま死ぬのは嫌だ」と心に強く思った可能性はあるでしょう。(ちゃんとやってないと銃を振り回してブラピがやってくるし)
ブラピは一人ひとりの心に大きな変化を起こすために行動しているのです。“自分が本当に欲しいと思ってもいない物を買うために、やりたくもない仕事をする”という生き方を捨てて、本当の人生を取り戻せと訴えかけてきます。
…やり方が過激すぎるけどね。
いくら世の中が胡散臭いといっても、そこで普通に家族のために頑張って生きている人もいっぱいいるわけですし。
まぁ、マイケル・サンデルの著書「それをお金で買いますか?」によると、アメリカの商業主義とか広告・宣伝のやり口は日本のそれとは比較にならないくらい醜悪らしいので、それに対して抱く嫌悪感もそれだけ強くなるのでしょう。
ブラピや主人公やファイト・クラブに集う男たちのような生き方は私にはできませんが、映画で見ているだけでもちょっとストレス発散というか、解放感は得られます。ただ消費文明やら物質主義に反抗するのはいいけど、ブラピがやってたささやかながら凶悪なテロ行為は絶対にやめてほしい。笑
深夜に書いているせいか大分まとまりのない感想になってしまいましたが、この映画の鑑賞自体も深夜の時間帯がおすすめです!映像にちょっとした仕掛けもあり、真夜中に見ていると「ん?今のなに?」となる不思議な感覚が楽しめます。(ただし淑女の皆さんは、一時停止してはっきり見定めようとしちゃダメ)
あっと驚く展開系の映画って、結末が分かったら2回目は別に観なくていいやってなるものも多いですが、「ファイト・クラブ」は何回でも楽しめる作品です。ちゃんと考察とかするためには原作を読んだほうがいいらしいけど、デヴィッド・フィンチャーの世界観とブラピのビジュアルの組み合わせが最高の映画なので、今から活字で読んで入り込めるかな…。当分は映画単体で楽しんでおきます。「原作読んでないやつは三流」という価値観の奴隷にはならないぞ!笑
最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪
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