サスペンス

「ベン・イズ・バック」ー理想の母親像は薬物の力の前では無力ー感想

薬物という悪は大きな力を持っていて、それは母親の我が子への愛情よりも強いのです。ベンはドラッグについて「愛されていると感じ、力がみなぎってくる。母さんですら、僕をそんな気持ちにさせることはできない」と語っています。その力はあまりに強く、ホリーがベンを愛しても愛しても、彼を薬物依存から救うことはできません。その無力感に苛まれたとき、母親はホリーのように盲目的になることで、何とかドラッグと息子との閉ざされた世界の中で自分の立ち位置を確保しようと足掻いてしまうものなのでしょう。
ドラマ

「グラン・トリノ」ー受け継がれていく“男らしさ”ーネタバレ感想

そう、この映画は「ヒーローの時代は終わったのか?昔の“男らしさ”は現代では無価値なのか?」を問うストーリーなのです。そして最も強く“男らしさ”というものに疑いを持っているのは、おそらくウォルト自身でしょう。なぜなら彼は朝鮮戦争で多くの功績を残した英雄ですが、自分が人を殺して勲章をもらったという事実を心の底から嫌悪しているからです。
ドラマ

「グリーンブック」ーこれこそがアカデミー作品賞にふさわしい映画だー感想

そう、この映画の最大の魅力は、主役2人の掛け合いが楽しいバディものなところです。教養があって理知的なドン・シャーリーはいかにも上流階級の紳士という感じ。かたやトニー・リップは下品だし喧嘩っ早いけど、明るい性格で大勢の家族や仲間に囲まれています。孤高のドン・シャーリーとは何から何まで正反対。そんな2人が旅の経験を通して互いに認め合い、やがてはベストパートナーになっていく展開はロードムービーのお約束。いや~、何回観てもグッときますね。
サスペンス

「ゴーン・ガール」ーエイミーみたいな女性ってわりと沢山いるーネタバレ感想

何が怖いって、世間を味方につけるためにあれだけ夫の落ち度を書きたてていたエイミーが、日記の中で不自然なくらいニックの浮気についての記述は避けてるんですよね。ちょろっとでも「どうやら浮気もしているらしい」とでも書いておけば、番組の女性視聴者を100%味方につけられそうなのに。それは絶対に書かない。断固として書かない。
ドラマ

「タリーと私の秘密の時間」ー若い頃に思い描いていた自分と違ってもーネタバレ感想

その点、この映画の主人公マーロはめっちゃリアルです。とにかく産後のたるみきった身体がすごい。顔の大きさの何倍もありそうな、ぶよ~ん!としたお腹にもう目が釘付け。娘にも「…ママ、その体どうしちゃったの?」と引かれまくっています。ドスッドスッと腰骨が開いた歩き方もリアルすぎて「やめて~!」って目を覆いたくなるよ。一日中赤ちゃんのゲロがついたボサボサのカーディガンを着ているマーロを見ると、どのママさんも「そうそう、これこれ」って共感できること間違いなしです。
ドラマ

「ジョーンについて」ー自分の人生を客観的に見つめることはこんなにも難しいーネタバレ感想

しかしこのエンディングからずっと巻き戻って、ジョーンが死んだ母親の部屋を訪れている最中に一つの奇妙なシーンが挿入されています。それはティムがフラフラと建物の外へと出て行き、中庭のような場所で突然崩れ落ちるように倒れるというものです。その後ティムはごく自然な表情でジョーンの母親の部屋に戻っているので、私には最初そのシーンが何を意味することか分かりませんでした。(てっきり「これも過去のどこかの回想シーンかな?」と思って流していました)
サスペンス

「ザリガニが鳴くところ」ー捕食者を前にしたときの、2つの選択肢ーネタバレ感想

ここまでで上映開始から2時間が過ぎ、映画もほとんど終わりになります。カイアが女性としての幸せを掴むまでを描いた一般的なラブストーリーであれば、無罪になってテイトと一緒になれてめでたしめでたしで終わるところでしょう。しかし、この映画の真のテーマはここからのラスト5分に込められていました。
コメディ

「パーム・スプリングス」ー終わらないバカンスで傷だらけの自分を癒やしてーネタバレ感想

こんな感じでサラはちょっと視野が狭いというか、自分のことしか見えていないところがあります。「家族中から厄介者扱いされてて辛い!妹の結婚相手なんかと浮気して自己嫌悪で辛い!それを打ち明けるのも辛い!辛い!辛い!辛い!」みたいな感じです。自己犠牲が尊いのは、自分の気持ちよりも他人の気持ちを優先させるからです。この場合、姉と恋人に裏切られている妹のほうがよっぽど辛いんですが、そういう他人の気持ちまではサラの視界に入っていません。
ミュージカル

「ラ・ラ・ランド」ー青春時代の恋人はラ・ラ・ランドの中で永遠にーネタバレ感想

ここで思い出されるのは、2人の春夏秋の物語が“ミナがやっと成功をつかむ可能性が出てきた”ところで終わりになったことです。それはセバスチャンが言ったように、これからミナが仕事に集中しないといけないから)というのも理由の一つかもしれませんが、実際には“ミナの物語のなかでセバスチャンがその役割を終えたから”というのが大きいのではないでしょうか。
サスペンス

「ファイトクラブ」ー確かにこれくらいやらないと今の生活は壊せないー感想

「俺たちはライフスタイルに仕える奴隷だ」ー私にとってこの映画は、もうこの一言に尽きます。 映画序盤でマンションの自宅を爆弾でフッ飛ばされ、こだわり抜いた家具や最新家電、高級ブランドの衣類の数々を失った主人公。“パーフェクトな生活”が一瞬で無になって途方に暮れる主人公に、ブラピはこう言い放ちます。 「寝てるあいだに女に×××を切り落とされた男もいる」 主人公はややあっけにとられて「いや、それはそうだけど…」。当然の反応ですよね。笑 でもこれ、ブラピが言いたかったのはお決まりの「アフリカには飢えた子供達が…」的な慰めではなくて、痛みや肉体に比べれば、“物”なんて大したことないだろってことです。